シリーズ 超常読本へのいざない 第10回


相対論の正しい間違え方


馬場秀和




 超常本の堆積物に分け入って、肯定派、否定派、懐疑派、そのスタンスを問わず超常現象が好きな読者ならきっと誰もが気に入るに違いないお値打ちものを紹介する「シリーズ 超常読本へのいざない」その第10回。今回は、アインシュタインの相対性理論は間違っていると主張する、いわゆる反相対論に徹底反論する一冊です。



『相対論の正しい間違え方』

 著者:松田卓也、木下篤哉
 発行:丸善
 平成13年6月10日 初版発行


 相対性理論は二十世紀の物理学に起きた革命であり、それは人類の自然観を根底から、そして永続的に、変えてしまいました。しかしダーウィンの進化論を別にするなら、それはまたUFO界隈で最も嫌われている科学理論でもあります。なぜなら、相対性理論によると質量/エネルギーや情報は光速を超えて移動することが出来ません。そうすると地球を訪れてきた異星人の大半が嘘つきだという結論にならざるを得ないのです。何しろ、彼らは地球と他恒星系の間を短期間に手軽に移動していると主張するのですから。

 というわけで、せっかくはるばる地球を訪れてくれた異星人たちの名誉を護るためには「相対性理論は間違っている」という立場をとるしかないわけです。相対性理論に反対する人々、いわゆる反相対論者のすべてが異星人の地球来訪を信じているわけではないでしょうが、いずれにせよ頭から「何が何でも相対性理論に穴というか矛盾点を見つけて論破したい。そのためにパラドックスを見つけてやる」という動機でスタートしていることにかわりはありません。

 こういう反相対論者が主張しがちな論を整理して、ひとつひとつ徹底的に執拗に反論したのが本書です。タイトルに含まれる「正しい」というのは辛辣な皮肉であって、「すでに間違いだと結論が出ているのに、何度も繰り返し主張される典型的な言いがかり」くらいの意味です。



 相対論の話題には何度も登場するお約束のネタというものがある。独立にいろいろな人が疑問に思い、いろいろな人が解説を試みているが、その間違え方やパラドックスと思う部分には一定のパターンがあり、端で見ているほど多岐にわたっているわけではない。(中略)そこで本論では、多くの人が陥っていると思われる部分を、多数決で考えて「正しい間違い」と規定して紹介してみる。




 相対論は間違っているとする人が提唱する“新しい説明”や“斬新なアイデア”は、たいていの場合、すでに多くの研究者によって徹底的に調べられていると思ってほぼ間違いない。(中略)相対論は間違いであるという人たちは、式を用いた定量的な議論をしないのが特徴である。(中略)口では何とでもいえる。しかし、それでは科学ではない。物理科学であろうとするなら、数式を立てて、観測、実験結果を定量的に説明できなければならない。



 では本書で否定(論破)されている【正しい間違い】をいくつか引用してみましょう。



【正しい間違い2-2】
 ガレージがあり、そこに車が入ることを考える。ガレージの長さと車の長さが等しくLで、車が走って入庫するとする。地上の人から見ると、走っている車はローレンツ収縮をして縮むから、ガレージの中にスッポリ収まってしまう。ところが車に乗っている立場で考えれば、縮んでいるのはガレージの方であり、車が収まるはずはない。これは矛盾ではないか?




【正しい間違い4-2】
 地球と月までの距離の半分の長さの宇宙船があり、光速の半分で移動している。宇宙船の後部が地球から離れた瞬間に、宇宙船の中で光速の半分の速度で物体を投げ上げる。すると、宇宙船の先頭が月に達したときに、宇宙船の中を移動した物体も先頭に届くはずである。ということはこの物体は光速で地球から月に届いたことにならないか?




【正しい間違い4-3】
 ほぼ光速に近い宇宙船が飛んでいるとする。この宇宙船が光とともに地球から月へ競争すると、(宇宙船の方がわずかに遅いものの)ほぼ同時に着く。これを宇宙船内から見れば、光速はやはり光速なので、光の方がずっと先に月に届くのではないか。




【正しい間違い9-1】
 運動する物体は質量が増加するのであるから、光速に近いスピードで並行に走るロケットがあれば、お互いの万有引力が強まり、ぶつかるだろう。ところが、ロケット上で観測すれば、お互いに静止しているのだから、引力は無視できるはずであり、矛盾である。




【正しい間違い9-3】
 運動する物体は質量が増加するのであるから、巨大なリングを回転させたり止めたりすることでその周囲に発生する重力を大きくしたり小さくしたりできるのではないだろうか?



 これらの「正しい間違い」について本書では詳しく、まことに詳しく解説してくれます。どこがどう間違っているのか、本当はどうなるのか。数式、グラフ、思考実験、様々な手法を駆使して読者が納得するまで粘り強く解説。その執拗さときたら、だいたいどの項目についても解説は数ページに及び、有名な「双子のパラドックス」にいたっては実に38ページを費やして図表数式すべてを総動員して説明。たいていの教科書や解説書よりも勉強になります。

 しかし本書の凄さはここから。読み進めるにつれて、だんだんと読者である自分が相対性理論をてんで理解していない、あるいは数式を解いて分かったような気になっているだけ、という事実に気づいてくる。少なくとも私はそうでした。いくつかの「正しい間違い」がなぜ間違いなのか分からないのです。例えば、兄が乗った宇宙船が加速して、弟がいる地球から遠ざかってゆく問題。



【正しい間違い6-3】
 宇宙船が地球から等加速度運動をして飛び立った。地球から見て宇宙船はどんどん離れていく。宇宙船から見た地球もどんどん離れていくだろう。


 問題なのは、加速をしている兄から見た、地球上にいる弟の姿である。多くの人は、弟も兄からどんどんと離れていくと思うのではあるまいか?(中略)ところが実際は、兄が加速を続けているかぎり、弟は兄からある距離以上は絶対に離れないのである。


 【正しい間違い6-3】のどこが間違いか分からない。というより私にはしごく当然のことのように思えました。でも違う。違うのです。解説を読むとなるほどそういうものかと納得するものの、直観的にどうにも受け入れがたい。つまり自分は相対性理論を「理解」しているわけではなく、何となく「信じている」のだということが明らかに。これでは反相対論の方々がいう「相対性理論を支持する者は、自分の頭で考えず権威を盲信しているだけ」という批判に反論できません。ごめんね。

 もう一つ例を挙げておきましょう。



【正しい間違い7-1】
 2台のロケットA、Bが宇宙空間に1光年離れて、地球に対して静止した状態で浮かんでいる。このロケットは地球から見て、ある時刻に同時に、同じ方向に向けて急速な加速をして、短時間のうちに光速の0.8倍の速度に達した。するとABの間隔はローレンツ収縮のために、地球から見て0.6光年に縮んだはずである。いったい、このロケットの間隔は超光速で縮んだのか。


 驚くべきことは、AB間の間隔は等速直線運動に移ったロケットから見ると、1.7光年に延びるのである。ローレンツ収縮どころか、膨張である。


 1光年離れて静止していた2台の宇宙船が、それぞれ亜光速で同じ方向に等速直線運動をはじめたら、宇宙船の間の距離は宇宙船から見て1.7光年に延びるというのです。延びる? なんでそうなるの? すいません、ワタシ相対性理論ワカリマセン。

 そして自信喪失したまま「双子のパラドックス」解説に進むわけですが、ここでも新たなショックが待ち構えていました。



【正しい間違い6-1】
 特殊相対論では加速度運動は扱えない。

【正しい間違い11-1】
 双子のパラドックスの説明には一般相対論が必要である。


「特殊相対論では加速度運動は扱えない」という信仰は広く浸透している。(中略)啓蒙書の類いには加速度が絡む問題になると「くわしい説明は一般相対論が必要」と書かれていたり、明記されないまでも、一般相対論の基礎である等価原理の説明に入るまで一切加速度の話が出てこない本が多いのも事実である。(中略)「特殊相対論は等速度直線運動しか扱えない」とか「磁界で曲げられた素粒子の軌跡の説明に、特殊相対論をどうやって応用するのか?」などと述べた段階ですでに、相対論を正しいと思っている人も間違っていると思っている人も関係なく、「私は相対論についてよく知りません」と白状しているのと同じなのだ。


 「正しい間違い6-1」も「正しい間違い11-1」も、私はそう信じていたので動揺しました。いやー、不正確あるいは誤った解説を素直に信じて「なるほどなるほど。まあちゃんと理解するためには一般相対論が必要だからな」で済ませていました。これは私だけが悪いんじゃなくて、きちんとした説明をサボる解説書にも問題があるのです。そうなのです。

 というわけで本書は相対性理論を支持する側である解説書(啓蒙書)や科学番組についてもかなり厳しく苦言を呈しています。



【正しい間違い8-3】
 相対論はニュートン力学とは違い、重力によって光が曲げられることを初めて予言した。


 相対論を正しいとする啓蒙書も、間違いだとする本も、どちらもニュートン力学では、光は重力で曲がったりしないという前提で話をし、なおかつ、曲がるか曲がらないか二者択一的な、定性的な話に終始しているのである。(中略)どちらが間違っているかといえば、双方ともおかしい。ともに基本を調べることを怠っているという点で五十歩百歩である。

 教科書なのか、それとも啓蒙書なのかを見分ける方法を1つ紹介しよう。特殊相対論のページ数が一般相対論より多ければ、それは啓蒙書である。教科書なら一般相対論の方が倍以上あるはずである。相対論が間違っているとする人たちは、たいていは特殊相対論を問題にする。特殊相対論は理解しやすいが、一般相対論は必ずしもそうではないからだ。

 相対論懐疑派の人々は、多くの場合、自分の勘違いした解釈を相対論の主張だと信じ込み、そこから派生する矛盾を指摘し攻撃してくることが多い。ややこしいのは、今述べた例を相対論の主張であると勘違いしているにも関わらず、素直に相対論は正しいと信じ込み、2重の間違いをクリアして主張する人が少なからずいる点である。たとえばNHKの『アインシュタインロマン』という番組では、まさしくこの説明がなされた。(中略)結局この番組の説明は、再放送のときにこっそり(?)改訂されて放映された。手直ししたものを再放送とよんでよいのかどうかは疑問の残るところである。


 最後に、オールドSFファンにとって興味深いのが光学的問題(物理的にどのような状態になっているかとは別に、それがどのように見えるか、観測されるのか、という問題)に関わる「正しい間違い」です。



【正しい間違い7-3】
 超高速で運動している物体の写真を撮ると、ローレンツ収縮に応じて実際に短く写る。




【正しい間違い10-1】
 光速に近い速さで動いている時計を見ると、遅れて見える。




【正しい間違い10-2】
 高速で移動する宇宙船から宇宙を眺めると、相対論的効果によって星の色が変わるという、いわゆるスターボウが見られる。




【正しい間違い10-3】
 高速で移動する宇宙船から宇宙を眺めると、相対論的効果によって星が前方に集まる。



 亜光速で進む宇宙船から背後に見える光景。出発した銀河が視野に大きく広がって宇宙船を取り囲もうとしてくるとか、スターボウ現象で虹色に輝く星々とか、そういう情景が出てくるSF(例えば堀晃さんの作品)が好きな方は、はたして本当にそう見えるのかどうか本書でお確かめください。


 そういうわけで、大学の教養課程あたりで特殊相対性理論とその定式化をきちんと学んだら、本書を丁寧に読んでみることをお勧めします。「正しい間違い」をひとつひとつ自分の頭で考えて正しい答えを出してから、解説を読んで確認する。そうすることで相対性理論、というより私たちが存在するこの時空の性質(因果関係が及ぶ範囲には空間と時間の制限がある)について理解することが出来るでしょう。異星人の名誉を護るのは、それからでも遅くはありません。



 もし読者が相対論の改訂に挑戦しようと思うなら、まず数学、物理学の基礎を修めてほしい。そして相対論を(間違いと思うかどうかにかかわらず)数式も含めて徹底的にマスターしてほしい。それからが勝負なのである。世の多くの相対論懐疑論者にはこの条件が欠如している。




超常同人誌『UFO手帖9.0』に掲載(2024年11月)
馬場秀和


馬場秀和アーカイブへ戻る